自宅で仕事をしていると、家賃・電気代・通信費や、仕事と私用の両方で使うスマートフォンのように「生活と仕事の両方に使っているお金」が出てきます。これを按分して経費にすることを家事按分(法令上は家事関連費の必要経費算入)といいます。「業務で使う割合が50%を超えないと経費にできない」という説明を見かけますが、法令と通達を読むかぎり、それは正確ではありません。この記事では、家事按分について国税庁が実際に何と書いているかだけを整理します。金額の目安や按分率の相場は扱いません。
先に答えを言うと、通達45-2のただし書きにより、業務で使う部分が50%以下でも、その部分を明らかに区分できる場合は必要経費に算入して差し支えないとされています。スマートフォンの購入代金など、取得価額の区分で悩む場合はスマホを仕事用に買ったときの経費処理もあわせて参照してください。
先に結論
- 家事上の費用は経費になりません。生活と業務の両方にかかわる費用(家事関連費)について No.2210 は、必要経費になるのは「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」と述べています。割合を決めることより、その根拠が記録として残っていることが条件になっています。
- 「50%」は法令の条文ではなく、通達 45-2 が示した判定基準です。しかも同じ通達に「ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない」と、はっきり書かれています。
- 青色申告の承認を受けている場合は、施行令96条2号という別のルートがあります。条件は「取引の記録等に基づいて、……業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる」こと。ここには50%という数字は出てきません。
根拠になっている条文と通達
| 出典 | 書かれていること |
|---|---|
| 所得税法施行令 第96条 第1号 | 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費。 |
| 所得税法施行令 第96条 第2号 | 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費。 |
| 所得税基本通達 45-1 (主たる部分等の判定等) |
96条1号の「主たる部分」、2号の「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。 |
| 所得税基本通達 45-2 (業務の遂行上必要な部分) |
96条1号の「主たる部分が……業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定する。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。 |
施行令96条は「次に掲げる経費以外の経費」を必要経費不算入とする構造なので、1号・2号にあたる経費は不算入の対象から外れます。出典:e-Gov法令検索「所得税法施行令」(https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096 )、国税庁「〔家事関連費(第1号関係)〕」(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm )。いずれも2026年9月12日確認。施行令の引用は原文の表記(「あつた」)のままです。
「50%ルール」の正体
50%という数字が出てくるのは、施行令96条1号の「主たる部分が……業務の遂行上必要」といえるかどうかの判定基準としてだけです。通達45-2は、そこを「業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうか」で判定するとしています。つまり50%は「経費にできる下限」ではなく、1号の要件を満たすかどうかの線引きです。
そのうえで通達45-2には、ただし書きが続きます。必要な部分の金額が50%以下でも、その必要である部分を明らかに区分できるなら算入して差し支えない。したがって「業務利用が50%に満たないから家事按分は一切できない」という理解は、このただし書きを読み落としたものです。ただし書きが認めているのはあくまで「明らかに区分することができる場合」なので、区分できるかどうかが実際の分かれ目になります。
なお「主たる部分」そのものをどう見るかについては、通達45-1が別に、業務の内容や資産の利用状況等を総合勘案して判定するとしています。45-2の50%は、その判定を数値で表したものと読めます。
青色申告と、そうでない場合の違い
| 項目 | 青色申告の承認を受けている | 受けていない(白色申告) |
|---|---|---|
| 使えるルート | 施行令96条1号 と 2号 | 施行令96条1号 |
| 条文上の要件 | 2号は「取引の記録等に基づいて、業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分」 | 1号は「主たる部分が業務の遂行上必要」かつ「その必要である部分を明らかに区分することができる」 |
| 対象になる所得 | 2号は不動産所得・事業所得・山林所得(雑所得は2号に含まれません)。1号も併用できます | 1号は不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得 |
| 条文・通達に「50%」の記載があるか | 2号にはありません | 1号の「主たる部分」の判定基準として通達45-2にあります(ただし書きつき) |
| 判定のしかた | 通達45-1により、業務の内容・経費の内容・家族及び使用人の構成・資産の利用状況等を総合勘案(1号・2号に共通) | |
この表は施行令96条と通達45-1・45-2の文言を並べたものです。雑所得だけで申告している場合、2号は条文上の対象所得に雑所得を挙げていません。青色申告の承認を受けていても、雑所得に係る家事関連費は1号の要件で見ることになります。
公式が示している判定の材料
通達45-1が挙げているのは、次の項目です。文末が「等」で結ばれているとおり例示であり、これだけに限られるという書き方はされていません。
- 業務の内容
- 経費の内容
- 家族及び使用人の構成
- 店舗併用の家屋その他の資産の利用状況 等
また No.2210 は家事関連費の例として、店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)を挙げています。挙げられている例はこの1つで、在宅で働く場合の具体的な当てはめは同ページには書かれていません。
この記事で書かなかったこと
- 家賃・電気代・通信費の按分率の目安(何%が妥当か)。上記の出典に記載がないため、書きません。よく見かける「床面積比」「使用時間比」といった計算方法も、これらのページには示されていません。
- 業種別・働き方別の按分の実例。同じ理由です。通達45-1は「総合勘案して判定する」としており、個別の当てはめは公式情報からは断定できません。
- 生計を一にする親族に払う家賃の扱い。No.2210 は「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費になりません」と別項目で述べており、家事按分とは別の論点になるため扱いません(同ページに固定資産税等についての例外の記載があります)。
確認しておきたい点
- 条文が求めているのは、割合そのものより「示せること」です。1号は「その必要である部分を明らかに区分することができる場合」、2号は「取引の記録等に基づいて……明らかにされる部分」と、それぞれ言い方が違います。要求の重さも違いますが、どちらも決めた割合を後から説明できる状態を前提にしています。
- 必要経費には「債務の確定」という別の要件もあります。No.2210 によれば、その年の12月31日までに①債務が成立し②その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生し③金額が合理的に算定できること、の3つをすべて満たす必要があります(減価償却費など債務の確定によらない費用もあります)。支払った年ではなく債務が確定した年で判断します。
- 固定資産税は業務用の部分に限って必要経費、事業税は全額。所得税や住民税は必要経費になりません(No.2210 注意事項)。同じ「税金」でも扱いが分かれます。
- この記事は令和8年4月1日現在の法令等に基づく No.2210 の記載によるものです。税制改正で変わる部分なので、確定申告の前に同ページ冒頭の表示日付を見てください。
